『全ての症例が1回で治ることを保証するものではありません。
症状や状態によって結果は異なりますが、1回で大きく改善できたということは、少なくとも治療方針は正しかったと考えています。
なお、「1回で治った」には、完治だけでなく、日常生活に支障がない程度まで大幅に改善した症例も含みます。』
今回は、ギックリ腰についてお話しします。
ギックリ腰というのは、正式には「急性腰痛症」といい、急に腰が痛くなった状態の総称です。
ここで問題なのは、腰痛の原因はさまざまであるにもかかわらず、それらをまとめて「ギックリ腰」と呼んでいることです。
つまり、腰のどこを痛めているのか、何が原因なのかは人によって異なります。
したがって、「ギックリ腰」という病名そのものが一つの病気を表しているわけではなく、さまざまな病態をまとめて呼んでいる名称なのです。
今回は、その中でも私が日頃もっとも多く経験している代表的な症例について書いてみようと思います。
実は私は年間200件以上のギックリ腰を診ています。
そのため、私にとっては「1回で大きく改善するのが普通」という感覚でした。
ところが調べてみると、現在の医学でも急性腰痛症は原因が特定できないことが多く、治療も保存療法や痛み止めが中心となることが少なくありません。
私はある鍼灸師の大先輩から「ギックリ腰は1回で治って当たり前」という話を聞きました。
その先生の施術を見学し、自分がギックリ腰になった時には「これは勉強のチャンス!」とばかりに施術を受け、自分でも解剖学を学び直しました。
そして日々、腰痛で来院される患者さんを診続ける中で、ようやく自信を持って「急性のギックリ腰は1回で大きく改善できることが多い」と言えるようになりました。
ただし、一つ注意があります。
ここでいうギックリ腰とは、
「今まで普通に生活していた人が、ある瞬間に急に腰を痛めて動けなくなった状態」
を指します。
混同しやすいのが、
この二つです。
症状はよく似ていますが、時間が経過すると痛みの原因が周囲へ波及していることが多く、1回で改善しきれないことがあります。
とはいえ、私の経験では3回程度施術させていただければ、ほとんどの方は改善されています。
ですから、「腰を痛めた」と思ったら、できるだけ早く施術を受けていただくことをお勧めします。
新鮮な症例ほど改善しやすく、こちらとしても施術がしやすいからです。
さて、前置きが長くなりました。
私の経験では、ギックリ腰で痛めていることが多いのは、
この二つです。
腸腰筋群とは、大腰筋と腸骨筋の総称です。
図をご覧いただくと分かるように、腰から始まり、大腿骨に付着し、脚を持ち上げる働きをする筋肉です。
歩く、階段を上る、立ち上がるといった動作で重要な役割を果たしています。
ここを痛めた時の特徴は、
「立ち上がる時」や「腰を伸ばす時」に強い痛みが出ることです。
特に、前かがみの姿勢から体を起こす動作で痛みを訴える方が多くみられます。
こちらは筋肉ではなく、名前の通り関節です。
ただし、膝や肘のように大きく動く関節ではありません。
仙骨と腸骨の「耳状面」と呼ばれる平らな関節面が接しており、ごくわずかしか動きません。
しかし、強い衝撃を受けたり、長時間同じ姿勢を続けたり、ベルトなどで強く圧迫されたりすると、この部分を痛めることがあります。
イメージとしては、足首の捻挫のように関節周囲の組織を傷めた状態と考えていただくと分かりやすいと思います。
仙腸関節を痛めた場合の特徴は、前屈した時に痛みが強くなることです。
靴下を履こうとして前かがみになった時や、床の物を拾おうとした時に痛みが強くなることが多く、腸腰筋群を痛めた場合とは痛みの出方が少し異なります。
私がこれまで診てきた症例では、この二つがギックリ腰の原因の大半を占めています。
したがって、この二つの状態を改善できれば、多くの患者さんで痛みは半分以下になり、動けなかった方が普通に歩いて帰られることも珍しくありません。
ただし、先ほども書いたように、発症から3日以上経過した症例では改善率はやや下がり、3回程度の施術が必要になることが多いというのが私の経験です。
実際の施術内容については文章では説明しにくいのですが、腸腰筋群に対しては、3寸8番(90mm・0.30mm)という、使い捨て鍼としては最も長く太い部類の鍼を使用します。
これだけ長い鍼を使わないと腸腰筋まで届かないからです。
刺入位置や角度、深さは体格によって変わりますが、要は確実に腸腰筋へ届くように刺入し、1Hzの低周波を約10分間流します。
これで大きく改善することがほとんどです。
仙腸関節については、腸腰筋より施術自体は比較的シンプルですが、関節面に沿って刺入するため、ある程度の技術が必要です。
通常は2寸5番(60mm・0.25mm)の鍼を2〜4本刺入し、同じく1Hzの低周波を行います。
ここは筋肉ではなく関節への刺激なので、筋肉への通電より2〜3倍程度強い刺激を目安にしています。
この二つを適切に施術すると、多くの急性ギックリ腰は1回で普通に歩けるところまで改善します。
私にとっては当たり前になっていますが、患者さんは皆さん驚かれます。
実際には、整形外科の先生がお二人、ギックリ腰で私のところへ治療に来られたこともありますが、お二人とも無事に改善されました。
もちろん、まだまだ勉強中です。
これからも研究を重ね、さらに精度の高い腰痛治療ができるよう努力していきたいと思います。
※なお、腰痛の中には骨折や感染症、腫瘍、内臓疾患などが原因となるものもあります。発熱を伴う腰痛、下肢の強いしびれや筋力低下、排尿・排便障害、転倒など強い外傷後の腰痛については、まず医療機関を受診してください。